まだ寒い春の日
大きな地震がその国をおそった

いつまでもやまない不気味な揺れのあと
海沿いの町は津波にのみ込まれた

逃げようとしていたおじさん
海沿いの小学校の子どもたち
車に乗った人 大きなビル
犬も猫も牛も馬も
すべて なにもかもが
つぶされ たおされ 流されていった

何もできずただ 水のむこうへ流されていった
本当になにもかもすべて

帰る家も家族も失った
大切なものをなくした人たちがたくさん
恐ろしい思い 悲しい気持ちを胸に
冷たい床で眠る

こんなに悲しくて死んでしまいたいのに
少しずつでもゴハンを食べて 元気にならなくちゃと
見えないだれかがいうんだ
こんなに悲しくて死んでしまいたいのに


大きな発電所が津波にやられて
ほうしゃせんという怖いものが出るという
「逃げてください、近づかないでください
あなたの町は危険です」

昨日までいつもどおりにくらしていた町に
もう帰れないかもしれない
見えない怖いものにやられてしまうから
それは「ほうしゃせん」だけじゃないかもしれない


これからどうしたらいいのか
とほうにくれている
何日もたったのに
まだぼうぜんと 何をしていいのかわからないまま

それでも何かを始めなくちゃならない
今までのいつもどおりがかわっていくかもしれない

まだ冷たかった風が
いつのまにかあたたかくなっていて
はっとした気持ちになる

ひとつ前の春はどうだったかなと
大切なあの人がいたはずなのにと


ゴハンを食べて 元気にならなくちゃ
だれかがいうんだ
力を出せよと だれかがいうんだ